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[本095]血と暴力の国/コーマック・マッカーシー [小説]

★★★★★
コーマック・マッカーシー「血と暴力の国」



血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

  • 作者: コーマック・マッカーシー
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2007/08/28
  • メディア: 文庫



シュガーはこの小説上最大の悪役であるのだけど
どうもその「シュガー=悪」の図式にしっくり馴染めない感じがしてた。
シュガーのみる世界は「諸行無常」にぴったりと寄り添っていて
それが私の(多分日本人の?)世界観にどこか共鳴するからで、
シュガーの台詞はいつも真理をついているように聞こえてしまう。

シュガーが恐ろしいのは
(ベルも言ってたような気がするけど)
人間を相手にしているつもりが実は
世界を相手にしているようなものだからで、
事故や病気や災害といったものが避けられないように
シュガーもまた避けられない事象のようなものだからだろうと思う。
と、ここまでは今までの感想なんだけど。

もっと恐ろしいのは
因果をはっきりと見せつけるそのやり方なのかもしれない。
世界は口をきかないけれど、シュガーには口があり(しかもよくしゃべる)、
どんな取るに足らない出来事がこれから自分を死に導くのかを
とくとくと語って聞かせる。
それはコイン投げが示すような
私たちが「因果」と言う言葉から連想するイメージと比べても
あまりにも小さく取るに足らないことのように思える出来事。
その結果が「死」で、今まさに自分がそれに直面しているのだとは
なかなか受け入れがたく、より理不尽さを感じずにはいられない。
(実際「因果」とはそういうものだろうとは思うけど)
自分が死ぬわけを聞かされたところで、
なんの平安も得られはしない。
むしろ余計に混乱しかき乱されるというわけ。
シュガーって本当に恐ろしい。

「ブラッド・メリディアン」の判事といい、
コーマック・マッカーシーの小説に出てくる「悪役」は
主人公含めどんな登場人物よりも鮮明に語りかけてくる。

・・・そういや最近「平原の町」読んでないなあ。




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091112 祝!ブラッド・メリディアン刊行予定決定! [小説]

遂に来た!!
待ちに待った「ブラッド・メリディアン」刊行予定!


ブラッド・メリディアン
2,100円
コーマック・マッカーシー(著)

刊行日: 2009/12/25

各地を放浪し、物乞いや盗みを繰り返してきた少年キッド。
十六歳のときにインディアン討伐の集団に拾われ、
虐殺に次ぐ虐殺の日々に身を投じるが……。
国境三部作、『ザ・ロード』著者の代表作。

ハヤカワオンライン



私がコーマック・マッカーシーを読み始めたきっかけは
何を隠そうケッチャムだったんだよなぁ。
10年くらい前のスタジオボイスに
ケッチャムのインタビュー記事が載っていて
そこに好きな作家として挙げてあるのを見て興味を持った。
ほんとは、ケッチャムも好きだという
「Blood Meridian」を読みたかったけど
邦訳は「国境三部作」の3冊しかなかった。



大嫌いなマット・デイモン主演で映画化された「すべての美しい馬」、
絶版で入手困難だった「越境」、
「〜馬」と「越境」が交差する「平原の町」。

以来愛読書で、
今でも「読書に陶酔」したくなったら、この3冊のどれかを読む。
コーマック・マッカーシーは私にとってすごく特別な作家になっていた。
アメリカでは大作家の誉れ高いらしいマッカーシー。
それだけに、邦訳が3冊しかないの現状には不満だった。

それがここ数年で急変!
「血と暴力の国」を映画化した
「ノーカントリー」がアカデミー賞作品賞を受賞したり、
「ザ・ロード」がピューリッツァー賞を受賞したりしたおかげで、
三部作の真ん中なのに絶版だった「越境」も再版されたし、
ヴィゴ・モーテンセン主演の「ザ・ロード」の映画も、
今月(ようやく)アメリカで公開される。



そして待望の「ブラッド・メリディアン」が読める!
しかも、こんなに早く。もう大興奮。
この勢いでどんどん未訳の作品が訳出されるといいなぁ。

コーマック・マッカーシー 国内刊行一覧
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[本018]金時計の秘密/ジョン・D・マクドナルド [小説]

★★★★☆
ジョン・D・マクドナルド「金時計の秘密」



金時計の秘密 (扶桑社ミステリー)

金時計の秘密 (扶桑社ミステリー)

  • 作者: ジョン・D. マクドナルド
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2003/07
  • メディア: 文庫



うーん、面白い。

金と女と日差しとミステリー。
キーワードはトラヴィス・マッギーシリーズにも通じるが
印象は多少違う。

ちなみに普通小説ともまるで違う。
様々なジャンルの小説を書いているけど、
どのジャンルを読んでも印象が違うのだ。

まるでライトな青春小説のような、
言うなればしょーもないストーリー。
でも、ジョン・Dが書くと、
なんだか読んだ後得した気分にさせてくれるから不思議。
これを作家の力と言わずなんと言おう!

ほぼ同時代に活躍したジム・トンプスンにも似た
そらっとぼけたユーモア。
トンプスン作品では
そんな空気の中、ことごとく掛け違いが起き、
終いには作品全体に息苦しい空気が蔓延するのだけど、
この作品では、すべてが好転し、
空気は常に澄み渡っている。

「金時計」に隠された秘密の持つ重みを
トンプスン作品の主人公たちと重ねてみる。
本書の主人公カービーが感じ取り、理解し、実行したものを
彼らは素通りしてしまったんじゃなかろうか。
重苦しい転落はその時点から始まっているのかもしれない。


しかし、ジョン・D・マクドナルドに関しては
読んだ順番が間違いなかった!
本書やカラー(トラヴィス・マッギー)シリーズから読んでいたら、
実際のところそれほど良いとは思わなかったかも知れない。

でも、普通小説から読み始めたおかげで
この人の大ファンになった。読破けってーい!

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[本008]木でできた海/ジョナサン・キャロル [小説]

★★★★☆
ジョナサン・キャロル「木でできた海」


木でできた海 (創元推理文庫)

木でできた海 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョナサン・キャロル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/04/20
  • メディア: 文庫




ジョナサン・キャロルの新刊。
しかし、高い。普通の文庫の厚さで1100円もする。
でもキャロルだから買わなきゃならない。

キャロルは他のどんな作家とも似ていない、
と思うのは、私だけではないと思うけど、
正直なところ、私は読む本が偏っているので
キャロルのような作風が他にないのかどうかはわからない。

もちろん、キャロルの作品が
どんなジャンルにも属さないというのもあるけど、
そもそも普通だったら
キャロルのような語り口の本は読まない。
キャロルは特別な作家のひとりだと思う理由でもある。

キャロルの作品に出てくる人物はいつも小ぎれいで、
知的で、恵まれた環境にいる。
私が普段好んで読む本とまるで正反対である。
そしてこれまた私の苦手な
不思議で気の利いた言い回しが頻発する。

だから、キャロルの新しい本を読み始めた時は
実はいつもちょっとげんなりするのだ。

でも3ページで忘れてしまう。
気がついたらなんかフワフワ浮いているような
キャロルの世界に入り込んでしまう。
なんでだかわからないけど、すぐに夢中になってしまうのだ。
まあ、「フワフワ」はすぐに溶け出して骨をさらすのだけど、
それこそ望むところである。


さて、この作品は「蜂の巣にキス」「薪の結婚」に続く
クレインズ・ヴュー三部作。




話自体は単独でも問題なく楽しめるけど、
登場人物や舞台が共通しているし、
今回の主人公のフラニーは、
前の二作でも印象的な役割で登場している。
だからもし前作を読んでないなら
できれば先の二作を読むことをオススメする。

実は前2作に出てくるフラニーには魅力を感じなかった。
キャロルは、身だしなみのいいタイプの人々を描く時は
すごく冴えてるけど、
貧乏人やアウトローを描こうとしたら、ちょっと鈍いよな、
といつも思っていたし、フラニーはその典型に思えたから。
でも、今作を読み進める内に、フラニー像が
キャロル得意のシャープな人物造形に近づいていき、
どんどん魅力的になっていった。

クレインズ・ヴュー三部作の中ではダントツで好きです。

ちなみに私的キャロルベストはこの3冊。



「死者の書」は最高傑作だと思う。
あとはやっぱりファンタジー要素少な目の方が好き。






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[本006]濃紺のさよなら/ジョン・D・マクドナルド [小説]

★★★☆☆
ジョン・D・マクドナルド「濃紺のさよなら」


濃紺のさよなら (1967年) (世界ミステリシリーズ)

濃紺のさよなら (1967年) (世界ミステリシリーズ)

  • 作者: ジョン・マクドナルド
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1967
  • メディア: -




日本ではあまり人気がないらしい
ジョン・D・マクドナルド。

「ケープフィアー」はずいぶん前に読んだけど
最近「呪われた者たち」「コンドミニアム」といった
普通小説を読んでとても気に入った。

で、シリーズもののミステリ「トラヴィス・マッギーシリーズ」を
読んでみようと思い立ったのだけど、
これが全部訳出されているわけでもなく、
さらに実際の刊行順とは無関係に邦訳が進んでいるというシロモノ。
当然というかなんというか絶版になっているものも多い。
そんなこんなでブックオフで探そうとするのだが、
ハヤカワッポケットミステリは扱ってないとのこと。
・・・先が思いやられるわ。

さて、トラヴィス・マッギーは
部屋付きのヨットをねぐらにする「取り返し屋」。
表沙汰にはできない盗まれた金を取り返して
元の持ち主と折半するという仕事(?)をしているという設定。

トラヴィス・マッギーのタフなのにセンシティブな部分には惹かれるものがあるが
普段ミステリとかハードボイルドは全く読んだことがない私には
正直こういう話はあまりピンと来なかった。
でも、今後もこのシリーズは続けて読んでみるつもり。






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[本004]この世界、そして花火/ジム・トンプスン [小説]

★★★★☆
ジム・トンプスン「この世界、そして花火」


この世界、そして花火 (扶桑社ミステリー)

この世界、そして花火 (扶桑社ミステリー)

  • 作者: ジム・トンプスン
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2009/04/28
  • メディア: 文庫



トンプスン邦訳初の短編集。

トンプスンの長編は、大抵ユーモアたっぷりの飄々とした語り口で始まる。
そのうち、なにげない(でも衝撃的な)ちょっとした暴力に目を覚まされ、
息苦しい長い時間があって、強烈な崩壊が訪れる。

長編作品は(邦訳で出たものは)全部読んだけど、
どの作品も、読み進めているうちにねばりつくような不快な感じに襲われる。
底なし沼に嵌ってしまったようなとはまさにこういう感覚だろう、と思える、
なにかどろどろしたものの中に身体ごと突っ込んでしまったような感じ。

短編は、あの世界が捻れていくような感じに至る前の
ちょっとした序章という趣きだけど、
短編然とした乾いたユーモアがあって面白い。
この短編集自体は「ジム・トンプスン最強読本」に収録されたものや
ミステリマガジン等に掲載されたものを寄せ集めたもので、
オリジナルの短編集ではないので、まとまった印象というのはないんだけど、
このような短編がまとめて読めるのは、ファンとして喜びですね。

収録作の中でも、表題作と未完の「深夜の薄明」は中編といっていい長さで
これは長編に近い感触がある。
特に表題作は傑作「内なる殺人者」にも通じる叙情性があり、とても気に入った。
映画化されているので是非観てみたいけど、DVDは出ていないみたい。
ビデオはあるようだけど、多分見つからないだろうな。

この本は翻訳者、三川基好さんへ追悼の意味もあるらしい。
三川さんについてはまた後日。
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[本001]エデンの東/ジョン・スタインベック [小説]

★★★★★
ジョン・スタインベック「エデンの東 上・下」




「二十日鼠と人間」
「怒りの葡萄」
「スタインベック短編集」

パラパラと読んできたけど、
どれも面白くお気に入りの本だった。

でも、スタインベックという作家を意識したのは

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